長期優良住宅は家を長持ちさせいつまでも住み続けられることを目的として平成21年に新しく施行された制度です。
最近では注文住宅を手掛ける各ハウスメーカーでも標準仕様でこの長期優良住宅の認定を受けれる場合が多く、実際こちらの制度は税制面での優遇など多くのメリットもあります。
しかし、実際に取得してみて感じるデメリットがあることもまた事実のようです。今回は長期優良住宅についての基礎とメリットデメリットについて話していきます。
長期優良住宅の認定基準
長期優良住宅は長持ちする家を目的としているので性能面でもいくつかの基準が設けられております。下記がその項目となります。
出典:国土交通省
長期優良住宅では骨組みや構造をはじめ、耐震性や床面積、断熱性能など様々な部分で制限が掛かります。ちなみに取得が難しそうと感じるかもしれませんが、現在では注文住宅より安価と言われる建売住宅でもこの長期優良住宅の認定を受けているメーカーも多数あるので家探しをするうえで必ず目にする項目とも言えるでしょう。
長期優良住宅のメリット
一定の基準を満たすことで認定を受けれるものなので当然多くのメリットがあります。特に税制面についての優遇が大きく多くの部分で恩恵を受けれられるものです。
※税制制度につきましては時限法により内容が随時更新される可能性があります。
住宅ローン減税
長期優良住宅であれば控除期間13年・所得税から年間35万(最大455万)の控除を受けれます。ちなみに認定を受けていない一般の住宅の場合は最大控除額が273万となるので差額にして182万円もの控除を受けることができるので最も大きい恩恵と言えるかもしれません。
固定資産税の軽減措置延長
通常の住宅購入については固定資産税が3年間50%の減額となりますが、長期優良住宅の場合であると3年→5年に減額の期間が延長されます。ちなみに建物の固定資産税は構造や規模により異なりますが、床面積100㎡の建売であると初年度で6~9万円(減額後)ぐらいになることが多く金額的には一般住宅よりも10~20万円ほど得をしていることになりますね。
不動産取得税の軽減措置
不動産取得税は不動産を取得してから半年後くらいに通知が届くので忘れやすい税金の一つですがこちらも税制面で長期優良住宅は恩恵があります。下記が不動産取得税の計算式となるのですが、長期優良住宅の場合は控除額が以下のように変わります。
課税標準の控除額:一般住宅1200万円→長期優良1300万円
つまり、長期優良住宅の方が100万円多く控除されるので一般住宅よりも不動産取得税が最大3万円安くなります。
登録免許税の軽減措置
登録免許税は新築購入に行う登記簿上の所有権の保存・移転に伴う税金ですがこちらについても税率部分について軽減措置があります。
【保存登記の場合】 一般住宅の税率0.15%→長期優良住宅の税率0.1%
【移転登記の場合】 一般住宅の税率0.3%→長期優良住宅の税率0.2%
税率が安くなることで税額が下がるわけですが、例えば新築を建てて保存登記を行うケースを考え課税標準を1200万とした場合に計算をしてみると
一般住宅:18,000円
長期優良:12,000円
税額が約6,000円安くなりました。はっきり言って不動産取得税も登録免許税も長期優良住宅にしたからと言って大きな恩恵を受けれるとは言い難い減税額ではないでしょうか。
フラット35による金利優遇
住宅ローンをフラット35で組む場合、長期優良住宅では金利優遇が受けられる可能性があります。具体的には当初10年間の金利を年0.25%引き下げるというものでフラット35S・金利Aプランと言われます。
出典:住宅金融支援機構
例えば、3000万の借入を行った場合に、一般住宅に比べ長期優良住宅であれば上記条件で約73万円ほど総返済額が変わってくるので税制面での優遇よりも大きな恩恵を受けれることになります。
ただし、こちらは予算などの上限が設定されているためいずれ終了する可能性がありますし、先々金利が変動しないと仮定した場合は民間の提供する変動金利の住宅ローンの方がフラットの金利Aプランよりも一般的に総返済額が安くなります。
長期優良住宅最大のデメリット
前述のように長期優良住宅では多くの税制面の優遇が行われています。
・・・が、税制面での優遇を受けようと思って長期優良住宅にしようと思うならそれはあまりおすすめできません。上記を見て気づいた方もいるかもしれませんが、正直言って固定資産税や不動産取得税などの税金面での優遇は全部まとめても一般住宅と比べ40万円ほどしか得をしておらず、むしろ長期優良住宅の認定を受ける上での費用の方が高くついてしまうというケースが多いのです。
ここからは実務上のお話になりますが、長期優良住宅にする場合、下記のような部分でコストが上がってしまうので税制面での優遇と天秤にかけると結果的に建築費用の方が高くついてしまうことが多いです。
- 長期優良住宅申請費用
- 工期が延びる(人件費増)
- 建築コストが上がる
長期優良住宅の申請にあたり、書類の準備や申請代行の手数料を含めると15~30万ほど掛かります。仮に見積もりに記載がなかったとしても本体工事価格や設計管理料などの名目の中に含まれていることが多いです。
また、長期優良住宅の場合は9項目もある基準を満たさなくてはならないため、中には断熱材や骨組み、耐震補強など標準仕様で対応できない所を追加で工事するケースなどもあるので一般住宅よりも1~2割ほど建築コストが上がると言われています。
認定後の維持管理が負担になることも
長期優良住宅に対応した住宅を扱うメーカーとの打ち合わせで必ず出てくる話になるのですが、長期優良住宅の項目には「維持管理」も含まれており、家が建った後も一般的な住宅に比べやることが多くなります。
具体的には以下に挙げるようなことを行う必要があり、これらの中には時間が掛かる作業なんかもあります。また、恐ろしいのが下記に挙げるような維持保全を怠った場合に認定が取り消される可能性があるのです。
計画通りのメンテナンス
長期優良住宅ではおよそ30年間の計画に基づいたメンテナンスを行うことが必要です。大半の場合は建築したハウスメーカーに委託するような形で計画に基づいた定期点検などのスケジュールを組みますが、施主側でも行政に提出するための住宅記録の保管をする必要があります。
住宅記録の作成代行や点検時に発覚した修繕箇所を補修する場合はもちろん費用が掛かるので、手間とコストが増えるという見方もできます。また、こちらの制度はハウスメーカーと密接に関わるようになることで以下のような声も挙がっています。
A・Nさん
維持保全計画書を着工時に渡され、スケジュール通りに定期点検に入ってくれるのは助かるのですが、修繕をする際の見積もりが他社より1.5倍も高かったです。長くハウスメーカーと付き合うっていいことだと思ってたけど、ここで過剰な利益あげてると思うと腹立たしくなってきました。
M・Yさん
比較的新しい制度だからか担当の営業に質問をしても全然答えが返ってこないし点検記録がどんどん増えるのも手間です。あと、建物の固定資産税が同じ床面積で一般住宅のお隣さんと比べると間違いなく高いです。
点検自体は一般住宅においても行うべきことですが、こちらはハウスメーカーとの関りがより深くなるためリフォーム代などが高いところに頼むと見えない負担がより膨らむと言えるでしょう。
気軽にリフォームや増築ができない
認定を受けた後で、増築やリフォームをするときには行政庁より計画変更の認定を受ける必要があります。
行政庁より維持保全状況調査がある
住宅記録を保管する理由の一つは認定を受けた住宅を対象に調査が行われる可能性があるからです。報告を求められた際に、報告をしなかったり、虚偽の報告を行うと30万円の罰金処分となることがあります。また、万が一認定を取り消されるようなことがあると今まで受けた住宅ローン控除や金利優遇などの恩恵を取り消しのうえで返還を求められる可能性があるので、いい加減な管理はできません。
長期優良住宅は売れやすい?
長期優良住宅は行政から認定を受けているので、いざ売りに出すことになったときに一般住宅に比べ売却価格が20%ほど上がる言われることがありますが、実務上では認定を受けているからと言って価格が上がっている実感は全くありません。それよりも長期優良住宅は売買や相続において地位を承継するために行政庁の承認が必要となるためこうした手続きを嫌がる買主もまれにいます。
長期優良住宅がおすすめできる人
前述のように長期優良住宅は税制面での優遇が大きいと思われがちですが、それ以上に手間と費用が掛かるものであります。そうした状況を踏まえて長期優良住宅がおすすめできる人はローン控除をフルに活用できる方におすすめできるでしょう。
各種恩恵の中でも住宅ローン控除部分は控除額に約200万もの差がでることになるのでローン控除の恩恵をフルに受けれるようなローン組をする人にとってはメリットが大きいです。
フルに受けれるとは所得税の高い層・・・つまり高年収の方々やペアローンを組む予定の方です。住宅ローン控除は納めている所得税+住民税が還付をされる仕組みになるのでお客様の中には最大控除額に満たない場合もあり、そうした場合であると長期優良住宅のメリットを最大限生かすことができません。
ちなみに自分がいくら還付されるのか知りたい場合は価格コムに優秀なツールがあるので試算してみましょう。
もちろん、長いこと安心して住み続けられる住居を探している方にとっても長期優良住宅の認定は一定の担保となりうるものなのでおすすめできます。大切なのは自分が何を重視して家探しをしているかです。
【長期優良住宅向きな人】
- ローン控除を最大限活用できる人
- 安心して住み続けられる環境を求めている人