相続や閉業を理由に事業用で使っていた自社倉庫を売却したい場合に多くの方は不動産業者へ売却の相談に向かうと思います。
しかし、相談する不動産会社選びには本当に注意してください。
ネットで検索をしていると倉庫は買手が少ないから更地にして売却をしよう・・・などの記事を見かけることがありますが、倉庫業を専門に行っている私から言わせもらうと非常にもったいない!と思います。なぜなら売り手であるあなた自身が損をする可能性があるからです。
今回は倉庫の売却を検討する上で売主が知っておくべきポイントについて解説をします。
本当に倉庫は売却だけを考えればいいのか?
そもそもの話ですが、倉庫を売却したいと考えた場合にどのように売却するのか?既存の倉庫を賃貸に出すのか?と言ったあらゆる選択肢から決めた結果になっておりますでしょうか?
例えば、倉庫を専門に扱っていない業者に売却を依頼すると借手の需要や適正価格を知らないので9割がた前述のように更地にして土地だけの売却を勧めてきましてそれありきの査定結果となります。こうなるといくら土地が広くても解体費の数百~数千万が差し引かれての売却額となってしまいますよね。
倉庫業に携わっている者であればわかることなのですが、倉庫は鉄骨や鉄筋造のため耐用年数が高く、中古物件であっても前面道路の幅員や周辺環境によって大きな値崩れをすることなく売却ができるケースがありますし賃貸需要も多いです。
そして、更に筆者の経験で言わせてもらうと一度賃貸に出して数年後に入居しているテナントの事業が軌道に乗り買主となって売買契約を交わしたということもあります。
こうしたケースで売却を出来れば賃料分が丸々利益になりますし、何より解体費の負担もしていませんからオーナー側にとっても最大限の利幅を取りながら売却に進められたと言えるのではないでしょうか。
倉庫を売りたいという上で最も大切なことはこうした物件の特性を適正に判断して最大限の利益で売却をしたり、賃貸にだして利回りをとり続けるということにあると思います。なので、単純な売却一辺倒に考えるはそもそも危険な行為なのです。
この部分は私自身が業界に入る前に相続によって得た自身の倉庫の売却経験をして損をしているからこそ言えることなので、気になる方はこちらの記事にも参考にしてみてください。
倉庫売却の流れ
実際に倉庫を売却する流れは戸建てやマンションを売却するのと同様に査定から不動産業者と媒介契約を結ぶことからはじまります。ここでは売却までの流れに行うプロセスにおいて倉庫業に携わる筆者から見た目線でのポイントをふまえ各流れを解説します。
倉庫の売却価格査定
売却を行う上で複数の不動産業者に査定の依頼を行います。査定方法は机上査定と訪問査定に分かれますが、倉庫の場合の査定額は不動産会社によって異なる可能性が高いです。
なぜなら、倉庫は不動産業者の大半が取り扱ったことのない物件となるので、そうした業者に依頼すると建物は法定耐用年数、土地は路線価や周辺相場を頼りに査定額を算出します。
対して、倉庫業に携わる業者であれば上記に比べ借手や買手の需要などの実勢価格を正確に見ることができますので精度はより高くなりますし、大半の業者であればシャッターや天高など倉庫内の設備についても確認した上で査定額を算出することが多いので、法定耐用年数を超えた倉庫でも建物に価格がつく場合もあります。
もちろん、場合によっては査定額が倉庫に精通していない業者よりも安くなるケースもあるわけですが、最終的に市場へ売り出す販売価格が売主となるあなたが決めることができるので、査定はあくまでも複数の業者がどのくらいの金額で売れるのか参考数値を集めるという意味で行うのがよいでしょう。
媒介契約を結ぶ
各社の査定額が出て、売れる金額をある程度算出できたら次は実際に不動産会社に売却を依頼するために媒介契約を結びます。
媒介契約は一般(複数社と契約可)と専任(不動産業者1社のみ売却依頼)に分かれそれぞれのメリットデメリットは以下とあります。
倉庫の売却におけるおすすめの媒介契約は倉庫業に精通した不動産業者との専任媒介契約です。
倉庫業に精通している不動産業者は既に倉庫の管理や運用を行っているケースが多く、買手となるテナントの情報を豊富に保有しているので精通していない業者よりも間違いなく客付けが早いです。
また、筆者の会社を例に言わせてもらうと埼玉県を中心に約300件ほどの倉庫を運用しており、物流業者や自動車整備業者などあらゆる倉庫を使うジャンルの企業と付き合いがあるので買手の情報をいち早く集めることができます。
更に倉庫業に特化している不動産業者であれば売却までのノウハウを豊富に持ち、場合によりオーナー利益となると判断ができれば賃貸に出すことの提案を素直にすることもできます。これは仲介専門の不動産会社だと例えお客様にとって利益になるとしても手数料が貰えなくなってしまうので提案はしないです。
仮に倉庫業に強い業者の査定が他社より低い場合でも、前述したように他社の高い金額で市場に出すこともできるので、後々の取引をスムーズに進めたり、買手をたくさん連れてくる業者に頼むのが最も理に適っていると言えるでしょう。
売却活動
媒介契約を結んだ不動産業者はレインズと言われる不動産業者間の情報サイトに物件を登録し物件の販促活動に臨みます。
媒介契約の種類によって異なりますが、お客様からの反響や問い合わせは売主に対して報告されるので報告される反響の数や質を確認していきましょう。
前述で、倉庫は売主が売りたい価格で市場に出せるとお話しましたが、ここで反響が少ない場合や値引き交渉が頻繁起きる場合は値下げの検討をした方が良いケースもあります。
少しでも高値で売りたい気持ちはわかりますが、ある程度の期日を決めて売却活動に臨むのであれば現実的な売値についてもある程度考える必要はあるでしょう。
そして、ここが大事なポイントなのですが、倉庫に強い業者と一般の不動産業者では売却活動について差が現れます。
具体的には、買手は物件を購入する前に必ず内見をするわけですが、営業担当が倉庫自体に詳しくないと買手の購入意欲を湧かすような案内ができません。
例えば、倉庫のシャッターがオーバースライダーだったり、動力が既に設置されているなど魅力的なポイントがたくさんあったとしても倉庫に詳しくない業者の営業担当であればこれらのアピールポイントが説明できません。
戸建てやマンションにはそうした設備がないのでわからないのは当たり前のことですが、こうした担当の案内であると本来決まるはずのお客様であっても決まらない可能性が出てきてしまうために媒介契約を結ぶ業者選びは本当に大切なのです。
買付申込み~売買契約
市場に物件を出してしばらくすると、購入を決めた買手から買付申込書が届くことになります。この時点で引き渡しの時期や指値交渉(値引き)など双方で大枠となる合意条件を固めてから売買契約に進みます。
ちなみに倉庫の購入者についてはほとんどの場合、事業者となるので買手側も相場知識をある程度持っており価格が市場価格と乖離している場合は指値が入る可能性が高いです。
その他、倉庫に残す設備や測量の有無など細かな条件を摺り合わせていき大筋の内容に合意があれば、売買契約日の設定を行い売主買主の双方で契約に向けた履行の着手に入ります。
売主側については物件の状況により抵当権の抹消手続きや所有権移転に向けた手続きを司法書士と共に行うことになりますが、間に不動産業者が入るので実際の行動としては指定された印鑑や必要書類の準備を行うことがメインとなります。
そして、決済日に代金の受領と共に鍵を渡し倉庫の売却は完了です。
売れる倉庫の特徴
保有する倉庫の資産価値を正確に知るには査定に出すことから始まるわけですが、倉庫と一言で言っても立地や建物の状況によって買手の需要は大きく異なります。ここでは売れやすい(借りられやすい)倉庫について解説をしていきます。
市街化区域内の倉庫
倉庫を借りて営業を行う場合は市街化区域内に存在する倉庫の方が買手が集まりやすいです。市街化区域とは都市計画法上で市街化を促進するエリアのことでこのエリアに該当をするかは市役所の都市計画課に問い合わせることで確認ができます。
そんな市街化区域は更に細かくエリア分けをされているのですが、具体的には以下の用途地域内にある倉庫であればかなり早い段階で買手が現れることが期待できます。
- 準住居地域
- 近隣商業地域
- 商業地域
- 準工業地域
- 工業地域
- 工業専用地域
これらの用途地域内に存在する場合は、市町村によって異なる場合もありますが建替えが可能であったりや行政上の許認可が取得できるケースがあるのであらゆる業種の買手が現れた場合でも対応できることがあります。
反対に市街化調整区域においては、倉庫が古くなっても建替えることもできなければ行政の認可が取れないケースが大半なので市街化区域の物件に比べ需要は劣ります。
ただし、市街化調整区域の場合でも物件によっておすすめできる運用方法や売却手段は残されているので諦めてはいけません。調整区域の倉庫でお困りの場合でもご相談に乗れますのでお気軽にお問い合わせください。
倉庫の種類と用途で売れやすさは変わる
倉庫は用途によって主に4種類に分類されます。現在保有している倉庫がどのカテゴリに入るかで売却のしやすいさや賃貸需要は大きく変わります。
- 営業倉庫
- 自家用倉庫
- 農業倉庫
- 協同組合倉庫
営業倉庫については、現に許認可を受けて営業をしていた倉庫などに当てはまるもので、建築の段階で厳しい審査基準をクリアした倉庫が認められるため建物自体の価値も高いと言えます。
また、買手の業種により異なりますが行政上の許認可が取得できる可能性が高いので買手や賃貸で借りたいという需要は大きいです。
自家用倉庫は、賃貸人や所有者が自社の荷物を管理をする際に作られることが多くコストを抑えて利用することも可能です。経験上ですが、自社の荷物を保管したいという企業や個人事業主の需要も多いのでこちらも借手や購入者の需要は期待できます。
農業倉庫については、基本的に市街化調整区域にあり用途についても農機具や農作物の保管を目的として作られているので需要はあまり期待できませんし法令上の問題もいくつか存在するため資産運用としてはかなり難易度の高い倉庫となります。
前面道路の幅員・道路環境
倉庫の売却や賃貸の需要を考える上で最も大切なのは、土地建物に加え前面道路の幅員が挙げられます。
幅員や間口が広いと物流業者から購入や賃貸の相談が数多く入るようになりますので売却額や賃料も強気に設定できるケースが多いです。運送業の場合であると営業所からの距離・車庫の広さ・前面道路・使用権原・明確な区画などいくつかの規定があり、それらを満たす物件は多くの需要を期待できます。
具体的には、幅員が5m以上あれば2tクラス、6m以上(相互通行の場合)で大型車の出し入れが可能となるので、幅員が広いとそれだけで多くの企業からその物件が選択肢に入ることになるのです。
また、市街化区域の範囲ありドラッグストアなどの小売り店が出店可能なエリアであれば、前面道路の交通量の多さも買手から高評価のポイントとなります。
倉庫はエリアや用途によりますが、物流業者の他に小売店、更にはスケートボード場など多様な用途に使われることがあるので商業を営む上での利便性も物件を決める大きな要因となります。
インターチェンジに近い倉庫
倉庫を買う・借りる多くのテナントは物品の輸送を行う上で、最寄りのインターチェンジまでの距離を半径○km以内までと決めて探している場合が多いです。いくら物件が安くても、数十~数百と他の営業所へ車で往復する場合にガソリン代が後々大きく圧迫をしてしまうためですね。
埼玉県であれば、経験上で言わせてもらうと外環・関越道・圏央道のICに近い(5km圏内)などは本当に需要が多いです。
そしてもう一点、インターチェンジに近い倉庫に関しては産業団地に指定されているケースもあります。産業団地とは工業の発展や企業誘致による地域の活性化を目的に特別に倉庫の建築を認めているエリアで建替えが可能となるぶん需要は高まります。市町村により異なりますが、市街化調整区域においても許可されていることがあります。
倉庫に強い不動産業者
倉庫の運用は情報が少ないので、経験のない不動産業者の言いなりになると損をする可能性があります。
なぜなら、すぐに現金化したい、資産を最大限増やしたいなど、売主様の意向によって手段は無数にあると思っていますが、そうした希望に対して適切な提案をするのはやはり倉庫の相場や買手の需要をある程度把握している必要があると思っているからです。
筆者は主に埼玉県内で倉庫に特化した運用から売却まであらゆるケースに合わせた不動産の取引の経験があるので、もしお困りの場合はお気軽にご相談ください。市街化調整区域の物件であったとしても調査しまして回答します。