自分で思い描く通りに家づくりが進められる注文住宅。ネットでは自由性が高いことからあれこれオプションを追加して予算オーバーをしてしまったという意見を多く見かけますが、これから家を建てる人においてはお金に直結する問題なので、予算オーバーはできるだけ避けたいという方も多いのではないでしょうか?
実はこの予算オーバー問題・・・オプションを追加して超えるほかにも個人では防げない要因によって上がってしまうケースもあります。そして、大半がこうした個人で意図していない要因によって予算を超えてしまうのです。
今回は注文住宅が予算オーバーすると言われる要因について代表的なものを元ハウスメーカーの筆者が解説します。
その1:地盤改良費
地盤改良費とは対象となる土地に建物が安全に建てられるかにおいて調査を行い、改良の必要があると判断される場合に掛かる費用です。こちらは改良工事の内容によって金額が異なりますが100万前後追加で掛かることになるので、資金計画にこの地盤改良費を含めていないと、仮に必要となった場合それだけで予算オーバーとなります。
そして、厄介なのがこの地盤改良の有無を判定するために行う調査は、建物四隅+中心の地面に穴をあけて行うので、裏を返せばプランが確定するまで調査ができないのです。
そのため、資金計画がある程度固まってきた段階で突如費用が上乗せになる可能性があるので、資金計画を作る上でこの地盤改良費はあらかじめ100万ほど予算の中に入れて置く必要があります。
地盤改良費についてもっと詳しく
地盤改良費は高額でありながらその費用が掛かるかどうかは後の部分にならないとわかりません。言わば見えない費用の代表格になりますが、仮に必要となった場合に地盤改良の工法も種類がありまして、内容によって費用が増減します。
また、工法については固い地盤にあたる深さなどによって決まり、安いから○○工法を選ぶなんてことは基本的にできません。下記が主な地盤改良工事の工法です。
表層改良工事
費用:50万程度
土に固化剤をまぜ表面上の地盤を固くする工法です。深い穴を掘る必要がなく地盤改良の中でも最も安価と言われます。
柱状改良工法
費用:100万円程度
コンクリートの柱を地面に何本も打ち込み支持層まで掘る工法です。注文住宅において行う地盤改良工事の中では経験上最も多かった工法です。
鋼管杭工法
費用:150~200万
最大で深度30mほどまで掘り進め支持層まで鋼製の杭を打ち込む工法です。固い地盤までなかなかたどり着けない際に行われる工法で金額が高い。
契約前に地盤調査を行うことは可能?
前述のように一般的にはプランが決まった後でその建物の四隅+中心で調査を行う必要があるため、契約前に地盤調査を行うことは難しいです。まれにおおよその位置で事前に地盤調査を行っている建築条件付き土地を持つハウスメーカーもありますが、その場合であると座標がズレていることになるのでプランによってその調査自体が意味をなさない可能性があります。
また、土地の契約前ということは所有権がまだ本人に移転していない状態なわけで、売主側が了承してくれることはほとんどありません。というより、私は仲介土地の契約前に地盤調査を了承されたことは一度もありません。
地盤改良を必要とする土地の特徴
プロの目からしても事前に把握することが困難である地盤改良の有無ですが、一般的には下記のような特徴を持つ土地に改良が必要とされやすいと言われています。
- 水田の多い地域
- 川沿いの地域
- 周辺と比べ低地の土地
水系が近い・水が溜まりやすい土地に地盤調査の必要性がでることが多いと言われます。実際、この特徴はおおよそ間違いではなく私が担当しているエリアでも上記のようなエリアの方が実際に必要となることが多かったです。反対に台地や丘陵地は安全性が高いと言われています。
地盤改良費は決して低い確率ではなく、予算オーバーの代表格です。必ず資金計画を作る上で計上しておきましょう。
その2:土地の追加で掛かる諸費用
土地においてはこの世で一つとして同じものが存在しないことに加え、現在は様々な法令によって追加で制限が掛かることがあるため意図しない費用が発生する可能性が高いです。こちらは例を挙げるときりがないくらい無数にあるのですが、代表的なものを挙げると以下のようなもので追加費用となりうる可能性があります。
準防火地域に該当するエリア
費用:100万程(建物規模・メーカーによる)
準防火地域とは住宅を建築するうえで、一般的なエリアよりも建物を燃えにくい素材で作らなくてはならないエリアになります。ハウスメーカーにより異なりますが、こちらのエリアに該当すると100万程コストアップとなりうるのでこの準防火地域に該当するか否かは軽視できない問題と言えるでしょう。
なお、検討している土地が準防火地域に該当するかを事前に知りたい場合は【市町村名+都市計画図】でネット検索することにより概要を確認することができます。まれにネット上で閲覧できない市町村もありますが、その場合は市役所へ直接赴き都市計画課に質問をすれば教えてもらえるはずです。
ただ、法令自体が火災の延焼を防ぐエリア=大規模火災が起きづらいことを目的として制定されているため、火災保険が安くなるというメリットもあります。
高低差のある土地
費用:50~300万
前面道路と高低差がある土地では擁壁と作る必要が出てきたり、新たに盛土切土など造成を必要とする場合があります。造成工事は多岐に渡り、擁壁においてはすでにある場合でも昔の基準で作られたものなどであると行政指導が入り作り直すことなどもあり、そうなると大幅なコストアップになります。
追加費用面では擁壁の規模や造成内容によって異なりますが、数百万単位で追加費用が掛かることもあり得るため、高低差のある土地購入の際には担当者に「どのような造成工事が必要となる可能性があるか?また、費用は誰が持つのか?」などしっかり確認しておくことが大切です。
前面道路幅による運搬費
費用:30~100万
こちらは上記高低差のある土地にも該当する部分ですが、前面道路が狭い・高低差があり車両で本地に建築資材が運べないケースなどにおいて小型運搬機を導入するため追加で発生します。この部分は人件費や工期に関わる問題であるため高低差の幅やどこから小型運搬・手作業で資材を運ぶのかなどによって費用が変わってきます。
その3:ライフライン引き込み費用
予算オーバー代表格のその3は同じく土地に関連をすることですが、こちらは水道やガスなど生活に必須となるライフラインの引き込み費用についてです。これらは引き込みに際し様々な条件によって金額が変動するため時には思いもよらない予算計上となります。
水道引き込み費用
費用:50~100万(通常) 100~300万
水道工事においては主に、敷地から室内を繋ぐ給排水工事と前面道路に埋設されている管を敷地に繋ぐ2通りの工事が発生します。
水道の引き込みは道路を掘削して管を繋げ、その後に元に道路を戻すという工程から費用が嵩みそうだな・・・ということは簡単にイメージできますが、前面道路と敷地の距離や宅内引き込みの距離や高低差によって費用が大幅に変わる可能性があります。
水道引き込み工事においては土地によって数百万単位で費用が上乗せとなる可能性もあり、更には生活をする上で後伸ばしにできない部分でもあるのでこの点は必ず資金計画に計上をしておく必要があります。
なお、この水道引き込み工事に関しては、各ハウスメーカーによって計上項目がバラバラなので見積もりのどの項目に計上されているのかなどをしっかり把握しておくことが大切。ちなみに増額となりやすい土地についても以下のような特徴があるので参考としてください。
- 前面道路までの距離が遠い
- 間口部分が歩道として舗装されている
- 水道管が他人地を経由している土地
- 高低差が著しい土地
また、現在すでに宅地内への引き込みが完了している場合でも、水道管の老朽化によって取りかえる場合や20mm管への口径変更などによって費用が掛かる場合もあります。
都市ガス配管工事
費用:10~30万
都市ガスの引き込みについては一般的に本管から取り出し管までの費用はガス会社が受け持ってくれますが、本管が前面道路にない場合の延長工事はガス会社と利用者の折半、宅地内引き込みについては本人の負担などガス会社によって料金の取り決めがなされています。
水道引き込みほど予想外の費用計上となるケースは少ないですが、都市ガスについても土地や前面道路の条件によって高額な引き込み費用が掛かるケースもあるため注意が必要です。下記ではその代表例を紹介します。
敷地延長の土地に引き込むケース
費用:距離による
一般的に宅地内にガス管を引き込む場合は自費となりますが上記図のように敷地延長(旗竿地)に住宅を建てる場合は、矢印からガス管を引き込みするの費用が高くなります。おおよそ引き込むのに1mあたり1~2万掛かるケースが多いので物件が前面道路から離れすぎてしまう場合だと思いもよらない費用となることがあります。
前面道路に本管がないケース
費用:距離による
前面道路にそもそも都市ガスの本管が通っていない場合は、近いところから延長工事をおこなって引き込むことになりますが、こちらは一人の力で引き込める問題でもないので正直言って現実的ではありません。ちなみに前面道路に本管が通っているのかは住宅地図をガス会社に送ることで確認ができます。
どうしても、引き込みをしたい・・・という場合は周辺住民で都市ガスに変更したい人がいないか探してみましょう。というのもガスメーターの設置が増えるほど利用者の負担額が減る仕組みになっているためです。
オプションによる意図しない予算オーバーの仕組み
注文住宅ではあらゆる項目を1から決めるゆえに起きる意図しない予算計上が数多くあることをここまで説明してきましたが、やっぱり一番多いのがオプションによる費用の増加です。これは主に2パターンありまして、一番多いのは「やっぱこの部分は○○がいいな~」というグレードアップ的なオプションの追加です。
そしてもう一つは「これってオプション対応になるの!?」という意図しないオプションによる費用の増額。
これも実は多くて、思いもよらない費用計上になってしまうんです。散々と言ってきましたが、A社では標準対応できるのに、B社ではオプション扱いになる・・・こんなことが多すぎて安いと思っていたハウスメーカーでも理想を叶えるために譲れない間取りや仕様を選んだら費用が大幅に上がってしまった・・・なんてことは本当によくあります。
これは完全に情報を統一、そしてWeb上で明示をしていない住宅業界の責任であると筆者は思っておりますが、こればかりは各社に足を運んでみないとわからない部分でもあるのです。とはいえ、個人的に消費者が標準と思っていながら実はオプションだったなんてことが起こりやすいものがいくつかあるので参考にしてみてください。
吹き抜け
費用:100~200万
パンフレットや展示場のモデルハウスが吹き抜けになっていながら実際にやろうとするとオプション扱いになるメーカーは多いです。費用はまちまちですが、過去に各社へ取った見積もりを元に言うとリビングに2坪ほどの吹き抜けを作る場合は100~200万の範囲となることが多く意外と高額です。
出隅入隅の追加
費用:1箇所2~4万
出隅入隅とは角の部分を指します。自由な間取りが魅力の注文住宅なのに間取りで角を追加すると費用が上乗せになるのが腑に落ちないという方もいるでしょうが、経験上ある一定数の角を増やすことでオプション扱いとなるメーカーが多いです。
ドアや窓の数
費用:追加時見積もり
ドアや窓においても一定数を超えると追加費用となるケースがあります。自由な間取りが魅力の注文住宅ですが、それを行う上で追加する設備が増えコストアップしてしまうというケースは非常に多くあるので自身が変わった間取りを考えているならどのような追加費用が掛かるのかを必ず担当者に確認しておきましょう。
いかがだったでしょうか。注文住宅で予算オーバーをしてしまう要因は大半が意図しない追加費用から起因してしまうのです。完璧に把握することが困難な業界であるからこそ、各社の比較は大切なことであり一生に一度のイベントで失敗しないためにも是非信頼できるメーカーと担当者を見つけてください!