倉庫や工場、店舗などの物件を専門扱う筆者の会社では、日々様々な事業用の物件探しのお問い合わせをお客様より受けます。しかし事業用の場合、想像以上に条件の合う賃貸物件を探すのは難しい・・・と多くのお客様は感じられるようです。
それもそのはずで、事業用として利用する不動産は様々な制約をクリアしたうえでなければそもそも目的の用途で使用することができず、物件探しの期間は妥協をしなければ1年は考えておく必要があります。
今回は、筆者が実際に経験した物件探しに苦労したモデルケースを例に物件を見つけるのが難しい理由と探し方のコツについて解説します。
最も合理的なのは居抜き物件を探すこと
はじめにですが、事業用の賃貸物件をお探しの場合は居抜きの物件を探すのが合理的で費用も安く済むケースが多いので最もおすすめです。
その理由は主に下記の2点あります。
- 造作コストが少ない
- 許認可や営業許可の問題をクリアしやすい
それぞれを簡単に述べますと、用途の違う物件を1から造作して目的に沿った物件とする場合は費用は数百~数千万単位で掛かることが多く、これは退去の際に掛かる原状回復費用についても同様のことが言えるからです。
そして、何よりも厄介なのが2番の許認可関係の問題であり、これは後述しますがそもそも理想の物件であっても目的の用途で最悪使用ができないケースがあり得るものです。
そのため、費用と物件の安全性を考えると居抜き物件が最も合理的であり、特に立地を考えないのであればなおさら居抜きで探すべきと筆者は考えています。
しかし、現実問題としてセントラルキッチンや自動車整備工場など希少価値の高い物件を居抜きで探すとなるとそもそも数が多くないのに現テナントが退去するまで待たないといけないため場合によっては永久に借りることができないという事態も起きます。
セントラルキッチンの賃貸物件探しが難航した理由
話しを戻しますと、筆者のお客様は以下のような理由で弊社に来店されました。
このテナント様は地元では口コミサイトの最上位にくるほどの有名なラーメン店様で、複数の店舗を出店したことをきっかけにセントラルキッチンの導入したいという要望がありました。物件の規模で言うとコンビニほどの広さ(約50坪)と適度な駐車スペースを求められています。
しかし、いざ市場に出ている物件を埼玉県内で探してみると条件に合う物件が一つもありません。
それもそのはずで、セントラルキッチンとして運営する場合は登記簿上の種類が「工場」となっていなければならないことに加え、営業許可を取る上で検査済証などの提出を行政に求められることもあり、条件が限られてしまうためです。
許認可を必要とする業種は極端に難しくなる
許認可とは簡単に言うと特定の事業を行う際に行政機関から取得しなければならない許可のことで、飲食店の保健所の許可、セントラルキッチンで言えばそうざい製造業などの認可のことです。その他にも自動車整備工場の認証工場や倉庫業の営業倉庫など・・・業種によって多種多彩な認可があります。
ちなみにこうした許認可関係の許可が下りる物件なのかどうかは、基本的に不動産の担当者ではなく自社(お客様自身)で調べて頂くことが基本となります。なぜなら、不動産会社側が各業種の許認可内容を把握するとなると必要知識が膨大となることに加え、特約を除いた宅建業法で求められる重要事項説明に説明義務ないためです。
余談ですが、物件を借りてからいざ事業を始めようとしたら許認可が下りず訴訟問題に発展するケースが多々あるようです。
地下1階の店舗をセントラルキッチン兼店舗として賃借したところ、排気ダクトの風量値の上限から、その目的に使用不可能な物件であったため、借主は契約を解除し、貸主・媒介業者に損害賠償を求めた。裁判所は、「貸主には借主が目的とする店舗として使用させる義務がある、媒介業者には借主の目的使用が可能な物件を紹介すべき義務がある」とする借主の主張は認められないとして請求を棄却した。
(令和3年3月26日 東京地裁)
ちなみに、事業用不動産に慣れていない住宅メインの不動産会社にこうした物件探しの依頼をするとリスクは高くなります。なぜなら、上記判例のように重要事項説明書の項目だけ調査をして、許認可関係の存在を知らずに契約日を迎えてしまう可能性があるためです。
物件が目的用途で利用できるかの判断
ネットで気になる物件を見つけたとしても、許認可が必要な業種についてはその物件が目的の用途で確実に使用できる保証はありません。ここでは物件が目的の使い方をできるのか?セントラルキッチンを例に判断する要素を紹介します。
建物の用途(種類)で判断
出典:法務局
不動産登記法では「建物の種類」が決められていて、登記簿謄本に記載される「種類」に沿った建物の利用をすることが原則です。
ネット上の事業用物件では一括りに「倉庫工場」となっていますが、厳密には倉庫と工場は種類では別物となり、簡単に言うとセントラルキッチンの場合は登記簿の種類が「工場」でないと行政の認可がおりない可能性が高いです。
これが許認可の難しい部分でもあり、例えば行政の認可等を必要としない事業の場合であれば自己責任で倉庫を工場として利用するテナント様もいます。
許認可の場合は文字通り行政側も責任を負うため・・・更には補助金などが絡んでくることがあるのでこうしたしっかりとした審査があるわけです。
なお、難しい話になってしまうのですが厳密には登記簿上の用途ではなく、その物件が目的の用途で利用ができるかは建築基準法の用途変更(確認申請)が必要となります。あくまで登記簿上の種類は参考として見るもので正確には専門業者に依頼し調査してもらう必要があります。
設備・環境面は適切か
事業用物件を探す上では、たとえ居抜き物件だとしても必ずと言っていいほど何かしらの造作が必要となります。
室内の間仕切りやレイアウトなど・・・セントラルキッチンをする上では排煙などの設備はもちろん、浄化槽である場合は何人槽なのか?現在の電力で問題なく事業ができるか?キュービクルが必要なのか?水道の口径変更は必要なのか?・・・などインフラ面でも気にかけるべき部分は多々あります。
また、事業を行う上では近隣住民との円滑な関係であることも非常に大切で、騒音や臭いがでる場合は対策を講ずるために追加の費用が掛かることもあります。
法令に適合した建物であるか
市場に出ている物件の中には既存不適格となった建築物や違法建築物となる物件もあります。特に違法建築物の場合であると、建築基準法に沿った建物ではないため、事業を始める際に行政や消防署から指摘を受け事業が開始できなくなるケースなども稀にあります。
必要書類を準備できるか?
賃貸物件で許認可を必要とする事業をする場合は貸主の協力が必要になるケースもあります。例えば、建物が設計通り・法令に沿って作られた建物の証となる検査済証は重要な書類で、業種によっては行政からこうした資料の提出を求められる場合があります。
その他にも境界の確定がわかる確定測量図など認可が必要な物件は提出書類が多いことも特徴の一つと言えます。
許認可が関わる物件を探すコツ
大手などであれば、マニュアルに沿った形で物件を探していくことが多いですが、許認可を必要とする事業は個人事業主や中小企業の関わる業種でも多種多様にありますよね。
特に初めてのことだと何から何までわからない・・・という方も多いと思いますが、物件をスムーズに探すコツは、役所などの認可権者と事業用に実績のある不動産会社を並行して訪問し、それぞれの必要なプロセスを確認することです。
不動産の場合ですと、それこそネットに載っている情報だけで物件を探そうとするとどこかで必ずイレギュラーな事案が出てきます。そしてその答えはネットには書いていません。
そのため、まずは役所に伺い事業構想などを担当の課に伝え、最低限事業開始に必要な書類や要件について確認をしておきましょう。そうすることで、大半の業種で申請に必要な要件や提出書類一覧などを貰えます。
そうした書類を持参して不動産会社へ行くことで、不動産会社側も調査漏れなく書類の準備や物件の紹介を行ってくれることでしょう。特に許認可関係では、登記簿謄本や地積測量図、公図、建築関係図面を求められることが多いのですが、こうした書類も初回対応時に話すことでスムーズに用意してもらえるはずです。
是非、信頼できる事業用不動産に実績ある不動産会社を探しましょう!
・・・専門でやっている筆者が言うのもなんですが、事業用不動産の紹介は居住物件の紹介よりも遙かに難易度が高いです。だからこそ、不測の事態が起きないためにも各担当とコミュニケーションを密に取るということも忘れずに行っていきましょう。