少子高齢化をきっかけに、日本の農業は後継者不足に悩まされているようです。
実はこの話、埼玉県の市街化調整区域の不動産取引を中心行う筆者も正に実感をしている話しで、最近では以下のような相談を非常に多く受けます。
とにかく農地の売却についてや、別の土地活用ができないのか?などの相談が多いのです。
農家の方であれば農地転用などの知識はおわかりになると思いますが、相続や贈与で得た農地を処分や売却したいとなると大半の方が何から手を付けていいのかわからないと思います。
先に言っておくと、農地は売れる農地と売れない農地があります。今回は、そんな農地の違いや運用できる土地であった場合にどのような手続きを踏むのかについてお話をします。
農地の種類
農地が売りたくても売れないという話しを聞くことがあると思いますが、それは国内の食料自給率や生産性を守るために農地に対して強力な制限を国がかけているからです。
農地と一言で言っても実際には農地法や農振法によって様々なランク分けをされていて、お持ちの農地がどのランクに属するかによって売れたり、他の土地として活用できるのかがわかります。
農振法による青地・白地とは
農振法とは農林水産省が農業用地利用の区別について定めたもので、農地は青地と白地に分かれます。自分の農地が売れるのかを考えた時に最初に行うのが、農地が青地・白地のどちらに該当するのか?という問題でこれは各市町村の農業委員会や農業課で確認をすることができます。
青地(農業振興地域内農用地区域内農地)
今後10年以上に渡って農業利用を確保する土地。農業以外の土地利用に対して制限をされる。原則転用不可
白地(農業振興地域内農用地区域外農地)
集団生産性の低い農業用地のため青地と比較すると制限が緩い。農地転用ができる可能性があり、それは農地以外の利用も認められる可能性がある。
青地がなぜ転用不可なのかというと、上述したように生産性の高い農地を守るためです。また、青地の農地はほとんどの場合で水路や区画整理などを税金を使って整備していることもあって、こうした公共性のある土地は基本的に転用ができないのです。
ただし、青地であっても「農振除外の申出」を行うことによって親族の居宅や公共用施設の用地として農地の転用ができる可能性もあります。
筆者の住まう川越市については下記の要件に該当する場合に農振除外の申出が認められるケースがありますが、大半の自治体でHPにて公表されているので「○○市 農振除外」と検索をしてみてください。
農地法による農地転用許可
青地・白地の判別の他に、農地は農地法によって農地転用ができる土地のランク分けをしています。そのため、農地が白地だったとしてもそのランクによっては転用ができないケースもあります。
農地法と農振法・・・ややこしいですが、農地を農地以外として活用する場合はこうした2段構えの制度をいずれもクリアしないといけないのです。
農地転用とは、簡単に言うと農地を農地以外の用途に地目変更することを指しまして、例えば現状が農地であると住宅が建てられないのはもちろんのこと、駐車場や資材置場など他の用途に変えることができませんので農地転用は土地を他の用途に使うための必要な手続きとなります。
そして、そんな農地は以下のような形でランク分けをされています。
第1種農地(原則不許可) | 10ha以上の集団農地で農業生産性が高く公共投資が行われている。 |
第2種農地(一部許可) | 小規模農地。先々で市街化する可能性がある農地。 |
第3種農地(原則許可) | 現に市街化の中に存する集団ではない農地。 |
農地法はそもそも農業の生産性を守るために作られていることから、一団となっているような効率的に農業ができる土地よりも生産性の低い独立した農地から先に転用を行いたいという考えがあります。
実務上の話しをさせて頂くと、1種、2種、3種のいずれの農地を所有する大地主が1種農地の転用を行おうと手続きをすると、農業委員会は「お持ちの3種農地から農転を行ってください」と有用性の低い農地から転用を行うように注文をつける場合があります。それだけ農業委員会は日本の農地を守ろうとするのです。
農地法の許可
前述した農地転用の可否を知ることができれば、続いては農地法の許可取得を目指します。
前述の農地はいわゆる「農地そのものの審査」となりますが、許可制度については「その農地をどう扱うのか?」に注目した項目になります。農地法には当該行為によって、3条許可、4条許可、5条許可と3つの許可があり、農地をどう扱うかによって許可の内容が変わります。
3条許可(権利移動) | 4条許可(転用) | 5条許可(権利移動+転用) | |
対象地 | 農地→農地
採草放牧地→農地(採草放牧地) |
農地→宅地など農地以外にする | 農地→宅地など農地以外にする |
許可権者 | 農業委員会 | 農業委員会から都道府県知事 | 農業委員会から都道府県知事 |
許可不要の特例 | 遺産分割
相続 土地収用 |
国・都道府県が権利を取得する場合
農家が自己所有の農地(2a未満)を農業用施設に供する場合 |
国・都道府県が権利を取得する場合 |
市街化区域の特例 | ー | 予め農業委員会に届出により許可不要 | 予め農業委員会に届出により許可不要 |
3条許可は農地を農地のまま売却する(権利移動)を指します。
4条許可は農地を農地以外のものにする(転用)ための許可で、例えば農地を住宅用地に変える場合などです。
そして5条許可は農地を農地以外にして売却する(権利移動+転用)するための許可です。
ちなみに、4条許可を得て農地を宅地に変えた後に売却(権利移動)するケースなどは再度5条許可が必要となります。上記の表については主に行政書士が行ってくれることが多い作業になるので、しっかり覚える必要はありません。
しかし、表の中で格別重要なのはその農地が市街化区域にあるのか、それとも市街化調整区域にあるのか?という部分になります。
市街化区域と市街化調整区域の農地
前述した許可制度は個別に農地の審査を行っているので、もちろん許可が受けられないというケースもあります。
しかしながら、農地が市街化区域の立地内にある場合は許可制度ではなく、転用の届出だけで済むので手続きが大幅に簡略され転用までの時間が短いというメリットがあります。
市街化区域 | 市街化調整区域 | |
農地転用(4条・5条) | 届出制度 | 許可制度 |
農転の受付 | 随時受付 | 月に1回の締切有 |
期間 | 受付から7~10日で受理証が届く | 案件により2ヶ月~1年 |
提出書類 | 簡略 | 膨大 |
市街化区域の農地であれば基本的に転用を行うのは比較的容易なので、売却までスムーズに進むことも多いです。
しかし、調整区域の農地については転用の難しい農地であると実に1年近くの時間を掛けてやっと許可が下りたなんてケースもあるので、基本的に売れない農地の大半はこうした調整区域で農用地区域内農地になります。
余談ですが、青地の農地などは仮に転用の可能性があるとしても不動産業者から断られることが多いです。なぜなら、農地の売却額は安く多大な労力を掛けながらも仲介手数料が安く不動産業者側の費用対効果に合わないからです。
都市計画法の許可申請をクリアする
農地転用が無事にできる農地であったとしても、市街化調整区域の場合は基本的に建物を建てることが出来ない土地となるので、農地転用と同時に都市計画法上の許可申請も行う必要があります。
都市計画法とは、その地域の町並みを作るためのルールのようなもので、ここでは建物を建築するための開発許可や建築許可などを取得することを目指します。
もし、売却する予定の農地で農地転用ができる場合、そこの土地で建物が建つと分かれば買いたいというお客様が現れやすくなりますし、売却額も上がるわけですからね。
ちなみに、市街化調整区域では基本的に建物が建てられないエリアではありますが、病院や老人ホーム、コンビニなどの開発許可が下りる可能性もあるのでその土地を調査をしてみないとわかりません。
農地は無限の可能性を秘めている
結論から言いますと、農地についてはその場所や何種農地なのかによって運用の方法が変わります。
上記以外にも土地改良区での手続きやライフラインの引き込みなど調査することは山ほどあるので、それこそ一つの土地に対して真剣に向き合わないと不動産業者であってもどのような提案がベストなのかわからないのです。
そして、実務上では大半の不動産業者が農地と聞くだけで、手間の割に報酬も貰えないから調べる前に断ればいいやくらいのスタンスであることが多く、所有者にとっては本当にどうすればいいか困ってらっしゃる方もいますし、当記事をご覧になられているあなたもそうした思いで辿り着いたのかもしれませんね。
・・・もちろん、そうは言いつつ確かにどうすることもできない農地があるのも事実です。しかしながら、もし当記事をご覧の方で埼玉県の方に限り農地の運用にお困りであれば筆者の努める企業は実際に農業系の案件も数多く賜っていますのでご相談ください。